Vol3 「栃の実煎餅」のザクザク食感は職人の手焼きから生まれていた話
2015/3/20 UP 取材協力:前畑点心堂/文献協力:(有)地域自然科学研究所
飛騨で昔から食べられてきた「栃の実」を使った特産品。高山土産としては栃の実煎餅がなじみ深いですが、実はこの栃の実、食べられる状態に加工するのになんと1ヶ月(!?)近くかかるんです。今回はそんな栃の実を使ったお煎餅を明治時代から作っている前畑点心堂さんに取材に伺いました。
このお土産が買えるエリア:銘菓・駄菓子エリア
今では高山土産の定番になっている栃の実煎餅。その元祖は明治28年創業の「前畑点心堂」。今日では厚さも硬さも様々にアレンジされ親しまれるようになった栃の実煎餅ですが、ここのものは一味違います。食べ応えのある厚みなのに程よく軽い食感。そしてほんのりと口に広がる上品な甘さ。一朝一夕にはまねできない元祖の心意気がそこに息づいていました。
栃の実煎餅の「栃の実」は古くは縄文時代から食べられていたとも言われています。西洋では「マロニエ」とも呼ばれ、その名の通り栗のような見た目が特長です。今では餅米に混ぜて作る栃餅をはじめ、栃の実だんご、栃の実饅頭などさまざまな特産品が作られるようになりましたが、そのなかでも日持ちがよく、長い間保存が効く栃の実せんべいが広く知られています。
栃の実の特徴は硬い殻とその強烈なアクにあります。ドングリを食べるよりも手間がかかるというその強力な渋みを取るためにはたっぷりの水で浸した後、殻を取り除きさらに何度も水を入れ替えて数週間に渡りアク抜きをしなければいけません。
通常栃の木は高級木材として伐採の対象になりますが、冬の厳しい飛騨の土地では栃の実が貴重な栄養源として扱われてきました。高山土産として栃の実の加工品が発展したのも飛騨の歴史に関係するのですね。
そんな栃の実を丁寧に下処理し、生地に練りこんだのが栃の実煎餅。前畑点心堂では栃の実を混ぜることでナッツのような独特の風味を加えた特製の生地をご主人が1枚1枚丁寧に手焼きしています。
焼きたての煎餅はふんわりとクッキーのような香りがたまらなく香ばしく、取材に伺った時にもちょうど「外に漏れるいい匂いに釣られて入店しました」というお客様がいらっしゃったほど!
前畑点心堂の栃の実煎餅が特別なのは、原料の配合へのこだわりにもあります。「飛騨産の栃の実にこだわり続けています。そして美味しい水や澄んだ空気も、原料の一部なんです」と語るご主人。選び抜いた原料をさらに夏と冬で配合を微妙に変えて口当たりをよくしているそう。あの適度な柔らさと噛んだときにザクッというおせんべいを噛んだ!という満足感まで楽しめる仕上がりはこうして作られているのですね。
季節を問わずおいしいといっていただける製品づくりへの努力を知ると、つい手に取りたくなるのは私だけではないと思います。厚みがありながらザクッと適度に軽い食感は歯が弱い方やちょっとおせんべいは苦手かも・・・という方にもお薦めです。
今回紹介したこだわり土産
前畑点心堂「栃の実煎餅」
高山土産の定番として親しまれる栃の実煎餅の中でも“元祖”と言われる逸品。昔ながらの素朴な味、それでいて噛むと口のなかで広がる香ばしさと上品な甘さは年代を問わず喜んでいただける定番土産としてお勧めできます。
飛騨物産館では今回取材した栃の実煎餅の他に、前畑点心堂のくるみ煎餅や甘々棒など昔懐かしの飛騨のお菓子も扱っています。もちろん館内の試食コーナーでお味見いただくこともできます。