こだわり土産の裏話

Vol12 もち米作りから手掛けるお餅屋さんの挑戦

2023/03/13 UP 取材協力:山田もち店

江戸時代そのままのどっしりとした門構えを誇る高山陣屋を背景に、まだ陽の昇る前より白いテントが立ち並ぶここ飛騨高山「陣屋前朝市」。およそ200年以上前より市が立ち、場所を変えながら現在では陣屋前朝市と宮川沿いの二か所にあります。
農家のお母さんたちが手塩にかけた野菜や果物、花や漬物、民芸品などを並べて、地元はもちろん観光客にも親しまれてきました。
農家のお母さんたちとの会話を楽しんだり、その場でパクっと買い食いを楽しむことができるのも魅力のひとつとなっています。

そんな陣屋前朝市で、祖母の代より自家栽培のもち米からお餅をつき、販売してきたのが山田もち店です。地元では朝食にお餅を食べるという方も多く、この地域だけで作られている粘りのある「たかやまもち」というもち米の品種をついた白餅や、豆やよもぎ、栃やきびなどを混ぜたつきたてのお餅が年中、朝市に並びます。
そんなお餅や自家製のお漬物に加え、人気を集めているのが、なんと「アップルパイ」。このアップルパイを毎朝焼いているのが、三代目に当たる山田裕紀さんです。

元イタリアンシェフの山田裕紀さん。現在はご実家の農業ともち店での餅づくり、そして新しいスイーツ作りに奔走中。

もともと料理人を目指し10年前より修行し、名古屋のイタリアンでシェフとして6年活躍していた山田さん。コロナが流行し始めたことにより転換期を迎えます。

「コロナでお店が営業できない日が続き、お客さんが全く来ない状況でした。そんな時、父親がケガをしたことをきっかけに、生家の農業を手伝う決心をしたんです。」

もともと跡取りではあったものの、自分の夢もあり料理人の道へと進んだ山田さんでしたが、田植えや稲刈りなどの折には、家族総出で手伝っていました。
それまでなんとなくふわっとしていた“農家の跡取り”という将来へ、ここで大きく動き出すことになります。

「朝市もコロナの影響で観光客が激減していて、高齢化もあり市にでる人も減ってしまっていました。そんな中、同じ朝市のりんご農家さんと母が会話の中で、コロナでりんごが余っている、という話を聞いてきたんです。」

高山の南端に位置する久々野地区は、標高が高く、昼夜の温度差や日当たりの良さなどから、りんごや桃といった果樹栽培が盛んな地域です。その久々野にある「小絲(こいと)果樹園」さんが作る紅玉りんごは、酸味が立ち、すっきりとした後味が自慢。その多くが製菓用として富山県に卸されていたのですが、コロナで需要が減ってしまっていたそうです。
そんな朝市つながりのご縁から、何とかならないか、という母からの話を聞き、この紅玉を使ったアップルパイ作りがスタートしたのです。

食べ歩きにもちょうどいい手のひらサイズのアップルパイ。ほんのり紅いフィリングは紅玉りんごの自然な色。

「袋をかけず陽にあてて育てるなど、こだわって作られたこの紅玉は、実がしまっていて美味しいんです。これをそのまま活かしたお菓子にしようと思いました。カスタードクリームやシナモンなどを使わず、りんごの食感を残すために皮ごと煮ています。」

皮ごと煮込んだフィリングのキラキラとした紅色がパイ生地からのぞく可愛いアップルパイ。サクサクとした甘さ控えめのやさしい生地と、酸味が心地いいりんごの風味。中身がジャムほど甘すぎないのも、大人が楽しめるアップルパイと好評です。
「毎朝、焼きたてを持っていくので、ほんのり湯気が立つアップルパイを、その場で召し上がるお客さんが多いんです。」と山田さん。一つ食べてみて、気に入りお土産にといくつも購入するお客さんも多いとか。
農家としてお米作りや、お餅づくりを父から学びながら、シェフとしての視点を活かした新しい挑戦は、しっかりと伝統ある朝市の名物に育ってきました。

そして、次に取り組んだのが お餅屋さんが作るいちご大福です。

「家の近くのバラ園とりどりファームさんが、いちごを作り始めたんです。食べてみるとこのいちごが、とにかく瑞々しくて甘酸っぱくて美味しいんです。 うちには蒸籠もあるし、大福が作れると取り組んでみました。 この採れたていちごのフレッシュな美味しさと、お餅の滑らかさや食感を楽しんでいただきたいんです。」

ふわふわとした柔らかな大福から透けて見える真っ赤ないちご。控えめな白あんの甘さが、いちごのジューシーな甘みとさわやかな酸味と混ざり合い、口の中が幸せいっぱいになるひと品です。

岐阜県産の苺や今後季節によってはご近所のToriDori Farmからの苺も予定。採れたて苺をやさしく包んだ「いちご大福」

朝市は、季節ごとに採れたての野菜や花、保存食としての役割ももつ発酵食品のお漬物、お菓子や農産物から作る民芸品など、いわば飛騨高山という土地の多彩さがわかる市場。そんな朝市の横のつながりを大切に、新しいアイデアや挑戦が生まれてきました。
コロナ禍という大きな局面にも、このままではいけないと思ったとき、改めて見えてきたのは、この「飛騨高山産」というキーワード。
地元民の台所として、生産者と消費者が直接顔を合わせることのできる場所として親しまれてきた朝市。美味しいものを届けたいと真面目に取り組む飛騨の生産者同士、その味にはお互い、信頼と矜持があります。
誰かに喜んでもらえたり、笑顔になってもらえる、シェフの仕事も農家兼もち屋となった今も、山田さんの根本は変わることはありません。
ただその味も、祖母の代、朝市から繋いできた地元の生産者の皆さんとのご縁が、より大きな支えとなってどんどん広がり始めているようです。

飛騨物産館(高山グリーンホテル内)で、山田もち店のアップルパイ・いちご大福を販売中。数量限定で出来立てが並びます。

飛騨物産館

山田もち店

住所
陣屋前朝市にて出店
営業時間
AM6:00~PM0:00

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